介護の場での傾聴カウンセリング

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目次

友人からのカウンセリングのお願い

友人から「知人の家族のカウンセリングをしてほしい」と頼まれたのは、先月のことでした。その友人とはここ4~5年で知り合い、時々飲みながらお互いの仕事の話などをしていたのですが、その時はメールでの相談でした。

 

ざっくりと状況を聴くと、その知人のご家族には介護を必要としている男性がいらっしゃって、その知人にとっての父親らしいのですが(以下、伊東様とお呼びします。)、どうも最近様子がおかしいとのこと。そのことについて私の友人に相談を持ち掛け、そしてその相談が私に回ってきた、という経緯です。

 

ご本人でなくそのご家族にお願いをされるというのは時々はあるのですが、まずは状況を詳しく知らない限り考えていても仕方がないと思い、引き受けることにしました。

傾聴カウンセリングはまずはご家族から

伊東様のご家族と初めてお会いした時、最初に気になったのは、伊東様の奥様、そして相談相手である伊東様の娘様のお姿でした。決して悪い意味での表現ではなく、おそらく身だしなみよりも介護を優先なさっていたのでしょう。服装やお化粧は最低限に抑え、表情もどことなく曇っていました。

 

私は、いきなり伊東様ご本人のカウンセリングに移るのではなく、まずはご家族の言葉を傾聴することが大切だと判断し、お話しを聴くことにしました。詳しく聴いてみると、だんだんと詳細が明らかになってきます。結論から言いますと、伊東様は軽度の認知症。60歳で役職定年となり、そのまま65歳で退職。60代後半までは何事もなく過ごしていたのですが、70歳を過ぎたあたりから不思議な行動が増えたといいます。

 

まず、物忘れがひどくなり始めたそうです。ずっと真面目に生きていた伊東様が色々な事を少しづつ忘れるようになり、自身でも不思議がっていたとのことです。次にひとつひとつの行動に、時間がかかるように。着替え、お風呂、おトイレ、どれをとっても年齢のせいとは言えないほどの時間がかかり、かといって意識ははっきりしているためご家族から手伝うこともいやがるだろうと思い手を差し伸べられず。ですが、そうしているうちにいよいよ家族全員の違和感が増してきたので、病院で診てもらうことになります。

 

細かくはここでは割愛しますが、軽度の認知症という診断に。伊東様ご本人はかなりいやがっていたらしいのですが、それでも家族で話し合い、デイサービスに少しだけ通わせることになったのだそうです。半年ほど経って一気に認知症が進行していったとのことでした。実は高齢の方の中でも70代前半という年齢では認知症の進行はかなり早く、一般的にはある程度進行してしまうと、3~4往復の会話はできない状態になってしまいます。

 

そんなある日、伊東様がデイサービスから帰ってくると、どうも様子がおかしいことにご家族が気付きました。どことなくご家族と接するのを避けているというか、今までよりも自分たちに怯えているというか。とにかくなぜかよそよそしくなっていたのだそうです。そのことについて悩んでいる時に、ちょうど私の友人から話を持ち掛けられ、私に相談した、というのが事の運びです。

 

どうして父の態度が急に変わってしまったのか、デイサービス側に聞いても「分からない」という言葉しか返ってこなかったので、私に何とか解決の糸口を見つけて欲しいというのが相談内容でした。初日は伊東様ご本人とは会話はせず、時間の許す限りご家族の方とお話をさせて頂き、相談内容や解決方法を明確化することに専念しました。また、こうすることでご家族に対しても傾聴カウンセリングを行い、ご家族の不安を少しでも早く取り除いて、安心して伊東様への傾聴カウンセリングを見守っていただこうという目的もあります。

伊東様への傾聴カウンセリングで原因を探る

事前にどの程度の認知症があるかはご家族の方から伺ってはいたのですが、伊東様の話し方やスタンス、会話の雰囲気をつかんでおきたかったので、他愛もないお話しをこちらから投げかけました。いきなり見ず知らずの人間に話しかけられて少し驚いてはいましたが、ご家族の方が優しく伊東様のそばにいてくださっています。この辺りは、事前にご家族の方とよく話していた影響だと思います。たしかに会話のキャッチボールは難しく、とぎれとぎれになってしまったりもしましたが、こちらは言葉をシンプルに伝え、伊東様が回答をくださるまで、無言が続いても待ってみるというスタンスを取ってみました。すると言葉の端々に伊東様の訴えが少しづつ浮かんできました。

 

特に繰り返しおっしゃっていたのは、「椅子に座る」「叩く」「怖い」「俺が食う時」「ほっといてくれ」という言葉です。初回に伊東様のお家に伺った時は食事をなさっていて、

むしろ怖がっている様子などは無く黙々と食事をなさっていました。ではなぜこのいくつかのワードを繰り返すのだろうと考えていたのですが、ここでひとつの疑問が浮かびます。そしてそれを伊東様のご家族に伝えることにしました。

 

「もしかすると、デイサービスでの食事の時に、何か怖い思いをされたのではないでしょうか。」

 

上に書いた通り、すでにご家族の方はデイサービス側から、どうしてなのかは分からないと聞かされているので、それを覆すような私の言葉に少し言葉を詰まらせていましたが、実際には誰もデイサービスでの様子を見ていないため、それが本当なのかは分かりません。ご家族の方の「もう一度デイサービスに聞いてます」というこの日の結論が出たところで、傾聴カウンセリングを終えました。

伊東様、そしてご家族の前向きな変化

さらに数日後に伺うと、ほんのわずかではありますが、出迎えてくださったご家族のお声が元気になっているような気がしました。話を聴いてみますと、改めて電話をしたところ、どうやらデイサービスでの食事の際、ソファに座っていた伊東様が昼食をとるテーブルへの移動をいやがり、それを見かねた職員が強引に移動させて食べさせたそうです。「叩いた」という事実は確認できなかったようですが、すぐにそこを辞めて別のデイサービスに。伊東様ご本人も安心したのか、自分たちへの違和感のある態度は無くなったとおっしゃっていました。

 

今回私のしたことは、伊東様のご家族、そして伊東様ご本人の話をとにかくしっかりと聴いて、それについて私という客観的な意見をシンプルにお伝えしただけです。ですがその「だけ」というのがとても大切で、何か大規模な行動を取らなくても、目の前にいる方とじっくりと向き合うことで解決できることも多くあります。今回、伊東様だけでなくご家族の方にもプラスな気持ちになって頂き、私としてもとても良かったと感じました。

 

併せて、カウンセラーとしての私のスタンスという記事もご覧ください。

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