傾聴は、あらゆる場面で、コミュニケーションを円滑にするために大いに役立っています。とても難しいスキルを要求されるのではないか?という疑問があるかと思います。カウンセラーやコーチなどの特殊な職業の人でないとできないのではないか?と思われがちですが、社会人であれば必須のコミュニケーションスキルになります。確かに初めは、意識しながらやっていただくことにはなりますが、ポイントを理解して、日々実践していただければ、自然と身につきます。
そんな傾聴を身に付けていただくために必要なスキル、すなわち傾聴力について解説いたします。
目次
傾聴力とは?
傾聴力とは、読んでいただいた通り、全身で身を「傾」けて、相手の話を深く「聴」く「力」を表すことです。その前に、「きく」とは、下の3種類あります。
- 「聞く」とは、耳できくこと(聞こえてくること)
- 「訊く」とは、口できくこと(尋ねること)
- 「聴く」とは、耳と目と心できくこと(全身を傾けること)
傾聴力の傾聴とは、3の「聴く」ことにになります。すなわち、耳と目と心できくこと(全身を傾けること)という姿勢であることが大前提になります。ちなみに、傾聴についての説明はこちらでもしております。
傾聴のスタイルとは?
アメリカの心理療法家のカール・ロジャースが提唱した心理療法である来談者中心療法がベースになっています。この来談者中心療法とは、非指示的療法と言われている「あいづち・うなずき・くりかえし」と、聴き手の人間性と言われている「受容・共感・一致」を合わせた心理療法となっています。
元々、傾聴は非指示的療法である、「あいづち・うなずき・くりかえし」のみでしたが、これだけだと相談者との信頼関係を築く上で、聴き手であるカウンセラーの存在が希薄になってしまうため、聴き手の人間性である、「受容・共感・一致」があって初めて、相談者が安心感を持って話すことができるので、傾聴には、「受容・共感・一致」が必ず必要になります。ここは大切なポイントになりますので、覚えておいてください。
傾聴の聴き方の心構えとは?
傾聴の聴き方の心構えとしては、下記が挙げられます。
- 相談者の話を遮らない
- 心を無の状態にして聴く
- 自分の知見や思い込みを外して聴く
- 想像で決めつけないで聴く
- 善悪の判断や褒めることもしない
そのための具体的な聴き方としては、簡単な受容(あいづち・うなずき・くりかえし)、事柄への応答、意味への応答、感情への応答や要約、質問などの技術があります。期待できる効果としては、下記が挙げられます。
- 話し手がスッキリする(カタルシス効果)
- 人や場と繋がり、安心する(バディ効果)
- 気付きが生まれる(アウェアネス効果)
- 信頼関係が構築できる(ラポールの形成)
お気づきかと思いますが、上記の1~4は、相談者の悩みの解決には繋がりません。傾聴とは、相談者の悩みに寄り添うことが目的であって、解決が目的ではありません。「悩みを解決しなければいけない」という先入観を捨てて、とにかく寄り添うことに集中しながら、相談者の話を聴いてあげてください。こういったことを意識しながら聴いていただくと、自然と傾聴力が身に付きます。
具体的な聴き方は大きく2つ
先ほども触れましたが、具体的な聴き方は大きく2つになります。
- 非指示的療法:「あいづち・うなずき・くりかえし」
- 聴き手の人間性:「受容・共感・一致」
この2つは両方とも必要になります。それでは、具体的な聴き方を解説いたします。
非指示的療法について
あいづち・うなずきとは?
あいづちとは、相談者が話しているときに聴き手であるカウンセラーが視覚的に動作として伝える側面と、あいづちで発せられる音として伝わる聴覚的な側面と両面を兼ね備えています。それに対して、うなずきとは、視覚的に動作として伝えるのみになります。両方はセットとして機能していると考えていただければよろしいかと思います。あいづちとうなずきの共通点は、軽くすれば軽やかに伝わり、深くすれば深みが伝わるので、その時々の状況によって、自然と調節をしながら相談者との信頼関係の構築に役立ちます。
ではなぜ、あいづちとうなずきが必要なのでしょうか?相談者の話を聴くのであれば、ちゃんと聴いていればいいのではないか?と思われがちですが、それは全く異なります。あいづちとうなずきをすることによって、傾聴カウンセラーは、「ちゃんと今、ここにいますよ!」という意思表示をすることができるのです。一緒に居てくれているという想いが伝われば、ちゃんと話を聴いてくれると、相談者は素直にそう感じるので、安心して話すことができます。
それから、あいづちとうなずきをする場合は、相談者の息遣いを合わせて、声色、声のトーンをよく注意しながら合わせていくことが大切です。これをすることによって、相談者は安心感と信頼を感じて、より深く話をしていこうという気持ちになります。
そして、あいづちとうなずきにおいて、傾聴カウンセラーとして一番大切なことは、普段からの自分自身との関わり方です。傾聴カウンセラーが自分自身との関係性がちゃんとできていれば、それは相談者にも伝播するので、自然と安心感のある空間を提供することができますが、そうではないと、相談者に安心感のある空間を提供することはできません。傾聴カウンセラーは日頃からの自分との関わり方をフラットにすることで、あいづちやうなずきにも一段と説得力のあるものになります。
尚、あいづちについては、傾聴に必要な3種類のあいづちについてにも書いていますので、ご覧ください。
くりかえしとは?
くりかえしとは、傾聴カウンセラーはちゃんと相談者の話を聴いていますよ!というメッセージを伝えるために行うことです。聴くということ自体は、あいづちとうなずきで、ちゃんとできていますが、それを相談者に伝えることで相談者にちゃんと話を聴いているということを伝えることができるのです。そうすることで、相談者は更に本音を話すことができます。
具体的には、単純に相談者が話した内容をそのまま繰り返すオウム返しがあります。これだけでも相談者は肯定的に聴いてくれていると感じることができます。他にも、相談者の具体的な話の内容や感情について要約して伝えたり、ちょっと不明な点については確認する意味で、質問をしたりすることもあります。
聴き手の人間性について
受容(的態度)とは?
受容(的態度)とは、善悪の判断ではなく、徹底的に受け止めることです。それは、相談者の話の内容をそのまま受け止めるということです。価値判断や否定、非難、批判、判定をすることもなく、まだ相談者が話していないことを深読みしたり、先読みしたりすることもしないようにお気を付けください。くれぐれも解決策を出すことは考えないように、ただ、今の相談者の話を受け止めることに集中してください。
具体的なやり方ととしては下記が挙げられます。
- 相談者の話を遮らない
- 傾聴カウンセラーは自分の話にすり替えない
- 相談者の話に触発されて、傾聴カウンセラーが話し始めない
- 傾聴カウンセラーは会話を横取りしない
- 傾聴カウンセラーは自分の意見と違っていても、否定語を使わない
- 「で、どうするの?」と結論を急がせない
傾聴カウンセラーは決して主観を相談者に押し付けたりせず、寄り添って話を聴くことが大切なことです。例えば、傾聴カウンセラーが相談者の話を聴いていたら、「この人、こうしたらいいのに…」と明暗が浮かぶことがあったとします。ですが、逆の立場で考えたときに、たとえ正しい意見であっても、いざ指摘されると気分を害することもあるかと思います。
言ってしまったら、相談者のためにならないこともあります。「相談者が自然と話したくなったら話す」という世界に入らないようにするのが、受容(的態度)の一番大切なポイントになります。
共感(的理解)とは?
共感(的理解)とは、相談者が感じていることを共に感じる姿勢のことです。ここで注意していただきたいのが、「共感」と「同感」は違うということです。例えば、ここで具体的な例を出します。
Aさん「今期に来たエリアマネージャー、細かすぎてやりにくいんだよね。」
Bさん「細かすぎる上役が来るとやりにくいよね。」
このときのBさんの反応は、「共感」でしょうか?それとも「同感」でしょうか?今回の場合は、「分かる、分かる。あなたのその気持ち!」という反応になりますので、これは「同感」になります。Bさんの立場からしたら、Aさんのエリアマネージャーのことは知らなくても、細かすぎる上役が来るのはやりにくい、ということは経験上理解しているので、Aさんの気持ちが分かる。だから「同感」になります。ここで、もうひとつ具体的な例を出します。
例えば、父親を亡くしたという体験は同じですが、それに対する感じ方や受け止め方は、人それぞれ違っている。これを分かろうとするのは、「共感」でしょうか?それとも「同感」でしょうか?
これは、「共感」になります。共感とは、例え体験したことは同じであっても、それに対する感じ方の違いを「分かろうとする」のが「共感」です。傾聴で必要になるのは、「同感」ではなく、「共感」です。共感のポイントは、相談者の気持ちと自分の気持ちを分けることです。「分ける」から「分かる」のです。
(自己)一致とは?
(自己)一致とは、相談者ではなく、傾聴カウンセラー自身が自分に対して誠実であることになります。ここは大切なところですので、お間違いないようにしてください。傾聴カウンセラーが、自由な立場のままで居ていい。かっこつけて模範である必要は無いということです。アメリカの心理療法家のカール・ロジャースが下記の通り言っております。
「理想的でない形も自己自身を含めて、怖がっている、聴けないのも含めて、
聴き手がまさにありのままの自己でいれば十分である。」
これを要約すると、傾聴カウンセラーが聴きたくなければ、聴かなくてもいい、ということです。傾聴カウンセラーは頑張って無理して聴けなくはないが、それでも、そこまでして聴かなくても構わないのです。傾聴カウンセラーが自分自身の心の声を無視して、「聴かなきゃいけない」という気持ちで聴いていると、相談者に対しても、「話さなければいけない」という姿勢を勝手に求めてしまうから、それは良くないということです。
傾聴カウンセラーもひとりの人間ですので、いろんなことがあります。職業として行っていることであっても、どうしても自分のマインドが整っていないときはちゃんと聴けないのです。こういう場合は、相談者に対してその旨ご説明して、別日にしてもらうなどの対応をすることが賢明です。傾聴カウンセラーは、自分自身に関して相談者を欺いてはいけないのです。
傾聴をする上で気を付けておきたいこと
以上のことを踏まえていただくことで、傾聴力は自然と身に付いていきます。それではここで、傾聴をする上で気を付けておきたいことをまとめておきます。
- 相談者の存在を尊重する。
- 相談者の苦しみを受け入れ、寄り添う。
- 相談者は話したくないことは話さなくていい。(話したくなったときに話す)
- 傾聴カウンセラーは自分自身に対して誠実であること。(自己一致)
- 傾聴カウンセラーは技術ではなく、心で聴く。
- 傾聴をするときはアドバイスは要らない。
以上の6点となります。
傾聴をすると、どうしても目の前の相談者のことを最優先してしまう傾向がありますが、そうではなくて、傾聴者(傾聴カウンセラー)は、まずは自分自身を守ることを最優先してください。そうすることで、必ず相談者のことを大切にすることに繋がっていきます。まずはここを意識することから始めていただくと、傾聴力は格段と早く身に付きます。
そして、傾聴力とは、傾聴カウンセラーだけのものではありません。人生のさまざまな場面で、どんな人でも活用することができます。まずはできるところから少しづつ、傾聴してみてください。迷ってしまったときは、以上の6点を思い出してみていただければと思います。
今だからこそ、傾聴力が必要
今の世の中、人に頼れないというか、頼りづらいという風潮があります。何でも自分ひとりでやって当然だと思ってしまい、ひとりで頑張って解決しようと思ってしまう人が多いです。それで頑張ってみても、なかなか解決しないので、寂しさを感じ、ひとりぼっちだと思ってしまう。要するに、自分の居場所がないと感じてしまうんです。だから寂しくて、ひとりぼっちであっても、ひとりもおいてきぼりにしない社会を作っていくべきであると考えます。
ひとりもおいてきぼりにしない社会を、傾聴力を通して、作ることができます。いきなり解決を求めることはしないで、まず相談者は自分の想いを言語化する。そして、言語化された想いを心で聴いて、相談者に寄り添っていく。これだけで相談者は救われたという想いを抱いてくれます。だからこそ傾聴力が必要になります。
どんな人にも必ず自分の居場所はあります。ただ聞くだけではなく、心で聴く傾聴を繰り返すことで、自然と傾聴力が研ぎ澄まされていきます。これから社会人として生きていくすべての人にとって、まさにこの傾聴力が必須となっていく時代になったのです。
併せて、傾聴に必要な3つの基本スキルにについての記事もご覧ください。
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