東京オリンピック・パラリンピック開催まで1カ月を切りました。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない状況の中、様々な考えをお持ちの方が多くいらっしゃると思います。中止にするべきだ、来年以降に延期するべきだ、そして感染対策を徹底した上で開催するべきだ、大体こんなところなのかと思います。飲食店の営業を自粛したり、幼稚園や小学校の運動会や遠足などを中止して、オリンピックは開催OKというのは辻褄が合わないといったところでしょうか。
世論が割れている中、天皇陛下が東京オリンピック・パラリンピック開催についてのメッセージを出されたことが大きな話題となっております。そこで今回は、このタイミングでメッセージを出した天皇陛下のご心境について、傾聴の視点から考えてみたいと思います。これを読めば、傾聴の基本である苦しんでいる人に寄り添うことの大切さ、理解してくれる人がいることの有難さが分かるかと思います。
目次
まず事の経緯から
6月24日、宮内庁の西村泰彦長官は定例会見で、約1カ月後に迫った東京五輪について、天皇陛下のメッセージを発表されました。「オリンピックをめぐる情勢につきまして、天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を、大変ご心配されておられます。国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁をお務めになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか、ご懸念されているご心配であると拝察しています」
実際には、天皇陛下が直接そういう趣旨の発言を皇室内ではしていないそうです。まずこの点については誤解しないようにしていただきたいです。ですが、宮内庁の西村泰彦長官は「陛下はそうお考えではないかと、私は思っています」とおっしゃっております。拝察という言葉を使いながらも、お気持ちを代弁しているに等しい発言をされております。
これは実質的には天皇陛下のメッセージと考えるのが極めて妥当かと思います。事の経緯は以上になりますが、天皇陛下が政治的発言をすることは例が無く、それだけ覚悟をお持ちになってのことであることが伺えます。開催を1カ月後に控えた今、コロナ禍での五輪に対する国民の心は揺れており、世界平和を願う理念の下に行われるオリンピック・パラリンピックが国民感情を分断してしまっているように思われたのではないでしょうか。
中立のお立場であることの難しさ
政府と国民感情の総意が乖離している状況で、本来中立であるべき天皇陛下が、オリンピック・パラリンピックの名誉総裁として、開催宣言をすることには大きなハードルがあります。開催宣言後に感染拡大が起こってしまったら、皇室全体としても大きな痛手となり、国民からも理解を得られない可能性もあります。
天皇陛下は、現状がどれほど危機的状況であるかを、よくご理解の上でご自身の懸念を表明しておく責任も感じたと思われます。ただ、政治的発言にも繋がりかねないので、天皇陛下と宮内庁内との間で調整をして西村泰彦長官がご発言されたと感じます。もし仮に批判が出たとしても、西村泰彦長官の発言として、矛先を治めることもできます。
ただ今回は、宮内庁としてはオリンピック・パラリンピックが始まるる前に、「皇室は、五輪と距離を取っている」ということをはっきり伝えたかったのだと思われます。これが国民に寄り添うということになります。
最後は国民目線で寄り添うこと
「皇室は、五輪と距離を取っている」ということが国民に伝われば、国民は「自分たちの想いを聴いてくれた」という受け止め方をします。自分たちの想いを代弁してくれたということです。実際、開催するかどうかは政治が決めます。私たちはそれに従うしかありません。それでも、自分たちの想いを分かってくれている人がいることの強さは絶大です。
現状では課題の解決とまではいかなくても、自分たちのために動いてくれた人がいる、代弁してくれた人がいる、ということは歴史に刻まれます。評価は今後の感染状況にもよりますが、歴史が判断することです。それでも、天皇陛下は国民に寄り添うという姿勢を見せてくださったことは私たちに勇気と希望を与えてくれました。
天皇陛下というお立場であるので、普通の人とはもちろん違いますが、天皇陛下は傾聴の基本である苦しんでいる人に寄り添うことの大切さを私たちに教えてくれ、私たちに理解してくれる人がいることの有難さを感じさせることができたと思います。傾聴というのは本当に素晴らしいものであり、たくさんの人の心を前向きに動かしてくれる、そういうものです。これからも傾聴の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。
併せて、傾聴とは?の記事もご覧ください。
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